1970年初頭、東京都下は府中市に「多摩サウンド株式会社」という
ガレージメーカーがありました。
当時としては、かなり高級志向の強いアンプメーカーでした。
社会人になったばかりの私が訪ねると、社長は大きさはいままで見たことのない
ほどの大きな211のアンプを製作されていました。
カタログを見るとサイズは570*380*260ですかね。
いたるところにタイト製のラグ端子を並べ、配線もお見事!という感じです。
当時は、私はラックスのA3500を組み上げて聴いていたころでしたので、
このアンプを見たときはさすがに驚きました。
幾らですか?と聞きますと、一番安いバージョンで16万弱でした。
ラックスのA3500が7万前後でしたので、2倍チョット。
しかし、社会人になったばかりの私はA3500もローンで購入している身分、
2倍と言えども直ぐに手が出せる状況ではありませんでした。
ここのメーカーは、ホント魅力的な真空管アンプをキット化していてずっと
続けて欲しかったと思いました。
最後に尋ねたのが1980年頃でしたでしょうかね。
昔の211のアンプキットはやっていないの?と尋ねると、昔のシャーシーが二台
残っているので欲しいなら作れるよ。と言ってくれました。
定価はトランス代の高騰もあり、25万ほどに値上がりはしていましたが、
それでも安いアンプだったと思います。
社長は、オーディオ雑誌で記事を書いていた井草氏です。
その多くの製作記事は、ハイエンドマニア向けの高級志向のアンプばかりです。
私の、本格的オーディオアンプの製作に傾倒するきっかけは、このガレージ
メーカー井草氏との出会いからです。
ステンレスシャーシーに高級真空管、プッシュプルにのめり込むきっかけにも
なりました。いまでこそプッシュプルは飽きてやりませんが、アンプの製作に
向き合うグレードの高い製作志向は、私の中で生き続いています。
その後会社を訪ねるとスナックに変貌していました。
「スナック真空管」という名前です。
アルコールが好きだったようですからね。
いまでも、たまに多摩サウンドの真空管アンプがオークションに出ていると
懐かしく思ってみてしまいます。
今回からは、しばらく昭和のオーディオメーカーの記憶を辿って
みたいと思います。もちろん私の歩いたメーカーの思い出です。